日本の仏教の宗派は13宗あって、さらにそこからいくつかの宗派に分けることが出来ます。
禅宗は、1950年代に画家である鈴木大拙が大々的に紹介して以来、今や世界に知れ渡る日本語として一躍脚光を浴びています。
また、現代世界の宗教状況に多大なる影響まで与えているのです。
欧米人は、禅宗は日本発祥であると思っていますが、実はその発祥は中国にまでさかのぼります。
そう、禅の発祥は中国。そこから日本へと輸入されたのです。
今回は、禅系と言われる禅宗の宗派である、曹洞宗と臨済宗の違いについて、簡単にわかりやすく解説していきます。
目次
曹洞宗と臨済宗の共通点は?
最初に、曹洞宗と臨済宗の共通点について説明していきます。
曹洞宗と臨済宗は、どちらも禅の流れを汲んでいる宗派。日本には双方とも鎌倉時代に伝わったとされています。
そのため、双方とも鎌倉仏教と呼ばれています。
結論から言うと、親戚関係の様な、隣人の様な、かなり近い関係の宗派となっています。簡単にまとめると、以下のような形です。
〇曹洞宗と臨済宗の共通点
・理論より実践的経験が重視
・自然を心理そのものとして受け入れ、自然に順応するような生き方を説く
・座禅で自分の心を整える
・悟り→自分という存在を明らかにすること
この様に、禅の流れを汲んでいて、これらを目指して修行に励んでいる宗派となっていることが、共通事項となります。
曹洞宗と臨済宗の違い
では、同じ禅のスタイルを組む曹洞宗と臨済宗の違いは、一体何でしょうか。
〇修行観が大きく異なる
曹洞宗・・・修行そのものを悟りとし、ひたすら座ること(=只管打坐)でブッダが実現する
臨済宗・・・悟りを公案で受け継ぎ、ひたすら考え抜くこと(=看話禅)でその答えを導きだし、悟りに近づこうとする
〇「禅」に対する思想・価値観が違う
曹洞宗・・・黙照禅(もくしょうぜん)で、ひたすら禅に徹する
臨済宗・・・看話禅で公案の答えを導き出す
〇「禅」組み方
曹洞宗・・・壁に向かって禅を組む面壁坐禅
臨済宗・・・人と向かい合って座禅を組む
それでは詳しく見ていきましょう。
曹洞宗について詳しく解説!
(開祖「道元」 出典:Wikipedia)
開祖:道元(どうげん)・・・生みの親的存在
瑩山(けいざん)・・・育ての親的存在
本山:永平寺(えいへいじ)、總持寺(そうじじ)
曹洞宗の開祖は、道元という僧侶。しかし、曹洞宗を全国に広めたのは、道元ではなく、実は瑩山という僧侶なんです。
このことから、曹洞宗は両名を“両祖”と呼びます。
①曹洞宗の特徴
曹洞宗では、「人はみな生まれながらにして『仏心』という、仏と同じ心を持っているが、普段の生活では仏心に気付くことはない」という考えを持っています。
そのため、修行そのものを悟りとし、ひたすら座ること(=只管打坐)でブッダが実現するとしました。
②黙照禅(もくしょうぜん)で、ひたすら禅に徹する
曹洞宗では「只管打坐」つまり、「ひたすら座禅に徹する」ことで、自分の中にある仏心を見出すということが目的となっています。
また、座禅をすることで仏心を持つ人間が身も心も安らぎを得た姿、これこそが仏の姿(=ブッダ)であると考えています。
つまり、自分自身の中にある仏心を見出すことこそが悟りであるという考え方をも持っています。
簡単に言えば、ただ座禅を組むことが目的となっているわけです。
この姿を臨済宗側が揶揄し、黙照禅と呼んだとされています。しかし、揶揄されたとはいえ、曹洞宗側はこの黙照禅という呼び方をお気に召した様子(笑)。曹洞宗でも黙照禅と呼んでいます。
③禅の組み方~面壁坐禅(めんぺきざぜん)~
曹洞宗では、面壁坐禅と呼ばれる方法で座禅を組みます。つまり、壁に向かって禅を組むことをこのように呼びます。
なんで壁を向かないといけないかというと、ダルマで有名な達磨法師が関係しています。
達磨法師は、中国禅宗の開祖とも言われる人物です。あなたは「面壁九年」という四字熟語を聞いたことがありますか?
達磨法師はなんと、面壁坐禅を9年も行ったとされています。達磨法師が由来となったのが、この四字熟語です。
つまり禅のルーツは面壁坐禅にある、と言う訳です。
臨済宗について詳しく解説!
(開祖「栄西」 出典:Wikipedia)
開祖:栄西
本山:南禅寺、京都五山、鎌倉五山
臨済宗の開祖は、歴史上、栄西(えいさい)と言われています。
栄西が鎌倉幕府の庇護を受けながら開いたのが、臨済宗です。
しかし、最近では、日本の臨済宗を確立したのは栄西ではなく、江戸期に登場した臨済宗の僧侶である白隠(はくいん)という説も出てきています。
①臨済宗の特徴
本来ならば「悟り」というのは、言葉では表現できない、感覚的に左右されるものです。
しかし臨済宗は、代々「悟りを受け継いできている」という考えを持った禅の宗派です。
しかし、「悟りを受け継ぐ」といっても、新しい師匠が別の人物に悟りを受け継いでいるとは限らないのが、臨済宗の大きな特徴。
悟りを開いていない師匠でも、弟子に悟りを受け継ぐことがあり得てしまうのです。そのため、コロコロ内容が変わらないように、受け継ぎ方にも工夫がなされています。
では、どのようにして悟りを受け継ぐのでしょうか。
②看話禅で公案の答えを導き出す
臨済宗の場合は、お題や問題を元に悟りに近づく方法を取っています。臨済宗でのお題や問題を「公案」と呼びます。つまり、禅問答です。
公案を師匠が弟子に出し、公案に対してひたすら考え抜くことでその答えを導きだし、これにより悟りに近づこうとするのです。
公案は、宋時代以降から記録が代々残されています。この公案集を元にして、師匠から弟子への問答を繰り返し行ってきたと言う訳です。
公案集さえあれば、悟りを開いていない師匠でも、弟子へ問答を繰り返すことが可能となります。
これが、前述の「悟りを受け継ぐ方法」です。
③公案(禅問答)は正解のない問題
公案は、傍から見たら正解のないとんちの利いた問答。傍から見たら、無茶ぶりな問題だらけ。
しかし、臨済宗の人たちからしたら、先入観があるからこそ無茶苦茶な問題だらけであって、人としての先入観を超越して、答えを出すことで悟りであり、それを越えた思想こそが悟りでは必要であるとしています。
④「とんち」といえば?
分かりにくかった人のために、あなたも知っている人物を例えに挙げましょう。
とんちをきれいに解決する人物といえば、一休さんですね。
一休さんは、臨済宗を代表する僧侶!一休さんはアニメでも、無理難題を「とんち」できれいに解決していきます。つまりあのアニメの内容は、公案(禅問答)の一幕ということです。
気になるあなたは、是非アニメ「一休さん」をご覧になってください。
⑤人と向かい合って座禅を組む
臨済宗は、人と向かい合って座禅を組みます。
曹洞宗の部分でもお話の通り、臨済宗も同じ禅宗の流れを組む宗派です。しかし、いつからか壁に向かっての座禅を止めてしまった、ということになります。
理由は明らかではありませんが、臨済宗における「公案」が、流れを変えたという説があります。
まとめ
✔ 共通点は、理論よりも実践が重視。自然を心理とし、自然に順応する生き方を説き、座禅で自分の心を整え、悟りによって自分の存在を明らかにする。
✔ 修行観の違いは、曹洞宗は修行そのものを悟りと只管打坐でブッダが実現するとし、臨済宗では公案をひたすら考え抜く看話禅で、悟りに近づこうとする。
✔ 「禅」に対する思想・価値観の違いは、曹洞宗は黙照禅(もくしょうぜん)で、ひたすら禅に徹し、臨済宗は看話禅で公案の答えを導き出す。
✔ 「禅」組み方の違いは、曹洞宗では壁に向かって禅を組み、臨済宗は人と向かい合って座禅を組む。