日本史を勉強していると、似たような用語が多いですよね。
問題を解いているとき、「アレ、これどっちだったっけ?亅「何処がどう違うんだ」「用語を使い分けている意味がわからない」と手が止まってしまうことがあるのではないでしょうか?
そんな悩みにお答えして、今回は「打製石器」と「磨製石器」の違いについて解説していきます。
目次
そもそも石器とは?
石器は、ヒトが手に持って使う石製の補助道具です。
ですから、墓石などは石でできていても道具ではないので、石器とはいえません。
主に、黒曜石やサヌカイトといった石が材料になっていて、加工方法の違いなどから打製石器と磨製石器に分類されています。
ちなみに黒曜石やサヌカイトの硬さは、モース硬度という基準で5〜5.5。
これは鉄製ナイフで引っかくと傷がついてしまう硬さです。
つまり、石器は鉄よりも柔らかい石でできていることが多いとも考えられます。
そのため、もっと固くて丈夫な鉄が普及する年代になると、石器の使用はかなり減ってしまう傾向が世界的にみられるようです。
それでは、本題の打製石器と磨製石器の違いについて見ていきましょう!
打製石器と磨製石器の違い
①石器のつくり方
打製石器と磨製石器ではつくり方が違います。
ここでは打製石器と磨製石器のつくり方について詳しく解説します。
★打製石器のつくり方
◎直接打法
ハンマー代わりの石を、ダイレクトに石材に叩きつける方法です。
もっともオーソドックスなつくり方といわれています。
◎間接打法
主に石刃(石でできたナイフと考えてください)をつくるために利用された方法です。
ハンマー役の石と石材の間に鹿やイノシシなどの動物の骨や角を挟み、打ち込みます。
間に挟んだ角や骨が緩衝材として働くので、より細かく削ることができます。鋭くしたいときに便利な方法です。
◎押圧剥離法
尖頭器・細石器など、より細かく削る必要がある石器づくりに使われました。
鹿やイノシシの角や骨を石材の削りたい面に直接押し付けて少しずつけがいていくことで、石器を鋭くすることができます。
完成前の仕上げ作業に向いています。
★磨製石器のつくり方
1)打製石器を作る
2)砥石(石材を研ぐための石)で磨く
ちなみにこの砥石には、「砂岩」という岩石がよく用いられていた、といわれています。
砂岩には、ガラスの成分である石英がたくさん含まれています。石英はモース硬度にして、7。これは、なんとあの鉄や銅をも傷つけることができる硬さです。
これを研ぎ石として使うことで、黒曜石やサヌカイトを磨くことができます。
②よく使われた年代
打製石器は、日本列島がユーラシア大陸と陸続きだった「旧石器時代」によく使用されていました。
旧石器時代とは約200万年前〜1万年前の寒い氷河期のこと。当時の日本は今のアラスカに近い気候だったようです。
これに対して、磨製石器はどうでしょうか?こちらは、日本でいう「縄文時代」と「弥生時代」に頻繁に利用されました。
約1万年前から地球が温暖化し、日本列島は現在に近い気候になりました。
世界的にはこの磨製石器が盛んに使われるようになった時代を「新石器時代」と呼んでいたりします。
ただし、注意していただきたいのは、新石器時代になったからといって、打製石器がまったく使われなくなったわけではないということ。打製石器は縄文時代や弥生時代にも使われていました。
また、旧石器時代には局部磨製石斧や細石器といった、石の一部分を磨いて鋭くした石器がすでに登場していました。
要するに磨製石器のパイオニアが旧石器時代にすでにいたということ。
まとめると、「基本的には打製石器=旧石器時代、磨製石器=縄文時代、弥生時代のイメージだが、どの時代においても両方の石器が一定数使われていた」ということになります。
③石器の用途
人が石器を使い始めたのは、自分たちの食料を手に入れるために、動物たちを捕まえようと考えたからです。
それぞれの石器がよく使われていた時代にはどんな生き物がいたのでしょうか?
ところでみなさん、生き物は、寒ければ寒いほど体が大きくなるという性質があるのをご存じでしょうか?
1867年にドイツの生物学者・ベルクマンという人が発見しました。
例えば、本州に生息するニホンツキノワグマは最も大きい個体でも体長1.5m程度にしかならないのに比べて、気温の低い北海道に生息するヒグマは、体長が最大3mにもなる個体もいるといわれています。
ですから、地球全体がまだまだ寒かった旧石器時代には体の大きな生き物が、一方世界全体が暖かくなってきた縄文・弥生時代には体が小さめの生き物が、多く生息していたと考えられているのです。
この法則をもとに、当時の人たちの生活の様子と石器の用途を見ていきましょう!
旧石器時代に打製石器が使われていた理由や獲物・使い方
旧石器時代の日本列島は大陸と陸続きだったこと、寒い気候だったことからマンモスやナウマンゾウといった大型動物がたくさん生息する場所でした。
体が大きい彼らはパワーがあり、襲われたらひとたまりもありません。
そこで当時の人間たちは、集団で行動し、獲物を見つけたらみんなで袋叩きにしていました。ですから、切れ味など必要ありません。
また、当時の人々は獲物を求め移動をしていました。
打製石器なら早く作れて加工の手間もそれほどかからず、すぐに作れます。
倒した獲物の皮を剥いだり、肉を切り分けたりするときにも、ナイフ型石器とよばれる打製石器を主に使用していたのです。
縄文・弥生時代に打製石器が使われていた理由や獲物・使い方
(磨製石器 出典:Wikipedia)
しかし、気温が上がり、縄文時代や弥生時代になると、状況が一変します。
それまで生息していたマンモスやナウマンゾウが気候の変化に適応できなくなって絶滅してしまいました。
代わりにイノシシやシカなどの小型動物が増えてきたのです。
彼らは大型動物と異なり、非常にすばしっこい動きをします。
これまでゆっくり動く獲物を捕食対象としてきた人間たちは、当然面食らいます。石を砕いただけの打製石器は重いので、素早い相手を捕まえるのに不利です。
そこで人間たちは考え抜いた末、弓矢を発明しました。
矢じりの部分に石鏃という磨製石器を使い、これを木の枝などに括り付け、弓で飛ばすことによって獲物を狩ることができます。
弓矢なら、打製石器のように手に持って動く必要はありませんから便利ですよね。
また、暖かい気候になったことで、植物や魚もたくさん採れるようになりました。
切れ味のある磨製石器は、採集や漁にもピッタリ。縄文時代には、植物を刈り取るための磨製石斧や魚の皮をはぐための石匙といった磨製石器が使われています。
弥生時代のものでは、稲を刈り取るための石包丁が有名です。
主な道具の名称と使用法について
最後に主な道具の名前・使い方についてまとめてみました!参考にしていただければ幸いです。
★打製石器
- 打製石斧・・・動物の捕獲、解体や木の伐採に使用。
- ナイフ型石器・・・石刃ともいう。獲物の肉を切り分けたり、皮を剥ぐのに使用。
- 尖頭器・・・突き槍、投げ槍として使用。
- 細石器・・・木の枝や動物の骨に細石刃とよばれる細かいパーツが埋め込まれている。投げ槍などに利用した。
★磨製石器
- 磨製石斧・・・木の伐採に利用した。
- 石鏃・・・弓矢の先端部分に使われた。
- 石匙・・・魚や動物の皮を剥ぐ際に使用。
- 石包丁・・・稲を刈り取るときに使われた。
- 石製紡錘車・・・機織に用いられた。
まとめ
✔ 打製石器と磨製石器はつくり方が違う。
✔ 基本は打製石器=旧石器時代、磨製石器=縄文時代、弥生時代。ただし、例外もあるので注意。
✔ 旧石器時代は①大型動物を叩く打力が大事で、鋭くする必要がなかった、②移動生活を営んでいたので、加工の手間がかからないほうが便利だったので、打製石器が流行った。
✔ 縄文時代・弥生時代は①動物が小型化して動きが速くなった、②気温が上がり、食料として使える植物や魚の種類が増えたので、より用途の広い磨製石器が普及した。