現在の衆議院議員の選挙方法は小選挙区比例代表並立制が取られています。
今回はこの『小選挙区比例代表並立制』という選挙制度について簡単にわかりやすく解説していきます。
目次
小選挙区比例代表並立制とは?
(国会議事堂内部 出典:Wikipedia)
小選挙区比例代表並立制とは二つの選挙制度を併用している制度です。
すなわち、小選挙区制と比例代表制です。
小選挙区制とは一つの選挙区から一人だけ当選する選挙制度。また、比例代表制とは政党ごとの得票数に応じて議席数を割り振る選挙制度です。
予め各政党で比例代表の候補者名簿を作成し、名簿順に当選者が決まっていきます。
小選挙区と比例代表の重複立候補も可能で、小選挙区で落選しても比例代表で復活することもできます。
この際、惜敗率といって小選挙区でどれだけ得票したかが順位に影響することもあります。
この二つの選挙方法を同時に使用しているのが、今の衆議院議員選挙です。
有権者は2票投票することになります。
小選挙区比例代表並立制導入までの流れ
①80年代末の政治不信
80年代後半、農産物輸入開放品目の拡大、消費税導入、さらにはリクルート事件、これらの要因が重なり自民党に対する不信感・不満が高まっていました。
こうした中実施された1989年の参議院選挙で与党自民党は大敗。参議院はねじれ状態になります。
こうした中、信頼回復のため自民党内では衆議院の選挙制度改革を求める声が出てきました。
当時の衆議院の選挙制度は中選挙区制と呼ばれる、1つの選挙区から複数の当選者が出る仕組みでした。
同じ政党から複数の候補が当選することも可能ですが、政策的にはさほど変わりがないため、地元への利益誘導や地元利益団体との癒着など政治腐敗の原因になる側面もありました。
この点を改善するために、小選挙区制の導入が検討されたのです。
小選挙区制になると当選者は一人になりますので、同じ党からの立候補は一人になります。
特定の団体への利権よりも、選挙区全体の利益が優先されるようになり、こうした中選挙区制が抱えていた問題も解決すると考えられました。
しかし、各選挙区から一人しか当選しない制度では大政党有利になってしまいます。
そこで小政党にも議席獲得の芽を残すため、比例代表制を同時に実施することになりました。
②成立までの経緯
選挙制度改革も含めた法案は政治改革法案と名付けられました。
まず初めに、1991年に海部内閣が法案の成立を目指します。
しかし、選挙区割りに関して与党自民党からも反発を受けて失敗。海部内閣は退陣します。
次の宮澤内閣でも、法案の成立へ向けて宮澤首相自らが覚悟を示します。
海部内閣の失敗を踏まえ、選挙区割りは後回しにして、純粋な小選挙区案として法案を提出。しかし、自民党内の内紛と、ねじれ国会における野党の反発で法案は否決されてしまいます。
逆に提出された内閣不信任案が可決されたことによって、宮澤首相は衆議院解散を選択。これに伴う選挙の結果、1993年8月に細川連立政権が成立します。
細川内閣でも政治改革が課題でした。
(細川内閣 出典:Wikipedia)
連立政権側と野党になった自民党側とそれぞれの選挙制度法案を国会に提出しますが、連立政権案は衆議院を通ったものの参議院では否決、自民党案は衆議院で否決されました。
法案の成立が危ぶまれる中、細川首相と自民党の河野総裁との間でトップ会談が開かれ、小選挙区300比例代表200で合意、こうして法案が成立しました。
区割りに関しては細川内閣では先送りにされてしまったので、このときには成立していません。
区割りも含めた現行の小選挙区比例代表並立制は次の羽田内閣のときに成立します。
(羽田内閣 出典:Wikipedia)
この小選挙区比例代表並立制はの4つの内閣を経て成立することになった法案だったのです。
小選挙区比例代表並立制と小選挙区比例代表併用制
小選挙区比例代表並立制と似ている制度で小選挙区比例代表併用制という制度があります。
この二つの決定的な違いは「小選挙区比例代表併用制では各党の議席は比例代表の得票率によって決まり、小選挙区の部分は党内の当選者を決める際に使われる」ということです。
より民意を反映させた政党別の議席数と、誰を当選させるかも有権者は選ぶことができるのでその2点が利点とされています。
しかし、複雑でわかりにくい制度です。
この制度は実はドイツやニュージーランドでも取られています。
一方日本で取られている小選挙区比例代表並立制では、小選挙区での当選と比例代表での当選は別物として扱われます。
比例代表の当選者は各政党が出した名簿順位で決まります。
ただ、小選挙区で立候補しながら比例代表の名簿にも載る重複立候補も可能なため、小選挙区で落選しても比例で復活できる可能性がある、という制度になっています。
小選挙区比例代表並立制のメリット
小選挙区制の比重が高いのでそれと同じ利点があります。
つまり政権交代が起こる可能性が高いということです。
与党に不満が集まると、次の選挙では最大野党に投票しようという行動が増え、そうなると一気に政党勢力がひっくりかえることもあるのです。
こうして誕生したのが2009年の民主党政権、そして2012年から続いている自民党安倍政権です。
(第2次安倍内閣 出典:Wikipedia)
毎回の選挙が政権選択選挙になる可能性が高いので、与党は真剣になります。
また、与党の議席数も増えやすいので、より安定した政権が作れる傾向があります。
小選挙区比例代表並立制のデメリット【問題点】
①死票の増加
小選挙区制で衆議院選挙を行ってしまうと大政党が優位になってしまいます。
また、その選挙区で一番得票を得れば当選できるものの、得票率が50%を超えていない候補者が当選することもありえます。
例えば・・・
例えば・・・
A・B・Cの三人が立候補した選挙区があるとします。
それぞれの得票率がAさん40%、Bさん35%・Cさん25%だったとき、当選するのはAさんです。
しかし、この場合逆の見方をすると60%の人はAさん以外の人に投票しているのです。
半分以上の人の意見が反映されない結果になります。
つまり3人以上の候補者がその選挙区で立候補していると、こういうケースが起こりえます。
このように投票したものの、選挙結果に反映されない票のことを死票といい、小選挙区制は死票が増える可能性があるのです。
そのため、幅広い民意を選挙結果に反映させるように、比例代表制もとられています。
こちらは政党別の得票数に応じて、議席が配分されていきますので無駄になる投票はありません。
小さな政党でも議席を獲得するチャンスがあり、二つの制度を使うことでバランスを取っているのです。
過去行われた衆議院議員選挙では死票が5割を超えるケースも出ています。
そもそも日本の投票率は低下傾向にあり、50%~60%の投票率で死票が半分となると、有権者の30%の意見しか議席に反映されていないことになります。
実際には比例代表の議席もあるので、そこまで低いわけではありませんが、それでも50%を超えることにはならないでしょう。
②得票率と議席占有率の乖離
また、得票率と議席占有率の乖離も見られます。
政権交代が起きた2009年の民主党や2012年の自民党も4割台の得票率で7割から8割の議席を獲得しています。
③政治家の質の低下
さらに小選挙区では候補者個人の政策よりも政党の政策で誰に投票するかを決める傾向があるので、○○チルドレンと呼ばれる議員が出てくることも問題です。
個々の政治家の政治的能力が低くても政党次第で当選してしまうという状況が生まれています。
つまり、一人一人の政治家の質が課題になってきています。
政治家の質の低下が、政治不信を生み、それが政治への関心の離れや投票率の低下につながっているとも言えるでしょう。
まとめ
✔ 小選挙区比例代表並立制とは日本の衆議院議員選挙でとられている選挙制度のこと。
✔ 政治と金の問題を解決するために導入された。
✔ 政権交代が可能な選挙制度になったことで、実際に政権交代も起きた。
✔ しかし、政党別得票率と獲得議席数に乖離が見られる。
✔ また、死票の増加や政治家の質の低下など、別の要因で政治不信が起きている。