太平洋戦争で日米の形勢逆転の契機になった「ミッドウェー海戦」。
「それまで勝ち続けていた日本海軍はなぜ負けたのでしょうか…? 」
「また、もし勝っていたらその後どうなっていたのでしょうか…?」
今回はミッドウェー海戦に勝っていた場合、どうなっていたかを考えてみようと思います。
目次
そもそもミッドウェー海戦とは?
(B-17爆撃機からの攻撃を回避する日本空母 出典:Wikipedia)
ミッドウェー海戦とは、1942年(昭和17年)6月に太平洋戦争中に北米大陸とユーラシア大陸の中間点付近にあるミッドウェー島近海で行われた日米による空母機動部隊による戦いです。
これまでアメリカ海軍に対して圧倒的優位に戦っていた日本軍空母機動部隊がアメリカ軍空母機動部隊の攻撃にあい全滅した戦いとなりました。
日本軍はこの戦いで虎の子の精鋭部隊を失い、この後ほぼ米軍との戦いには勝利することのないまま敗戦への道を歩んでいくことになります。
日本からすると太平洋戦争のターニングポイントになった戦いの一つとして捉えられている戦いなのです。
なぜ日本軍は負けてしまったのか?
①ミッドウェー海戦の開戦要因
ミッドウェー海戦は1942年4月に東京が空襲にあったことが原因で起こりました。
それはアメリカ軍の空母艦載機は航続距離が短かったので航続距離の長い陸軍の航空機を載せ、東京を空襲後中国にある基地に着陸する、という普通では考えられない攻撃でした。
被害そのものは軽微であったものの、日本軍は首都を攻撃されたこと、またそれを察知し防ぐことができなかったことを問題視します。
そのため、日本軍の警戒ラインを前進させるためにミッドウェー島を占領すること、また真珠湾で討ちもらしたアメリカ空母を撃滅することを目的にミッドウェー海戦を立案しました。
②ミッドウェー海戦の2つの敗因
ミッドウェー海戦の敗因は主に二つです。
先に述べたように日本軍の目標は2つありました。
つまりミッドウェー島の占領とアメリカ空母に対する攻撃です。島はどこにあるかわかりますが、空母はどこにいつ現れるかわかりません。もし島の基地への攻撃中に敵空母が現れたらどうするのか、攻撃先の優先順位が東京の本部と現場の前線における艦隊において共有が不十分でした。
さらに現場の指揮官の間でもこの点は認識の差があったのです。
東京空襲によるショックが大きかったため、慌ただしく準備が十分でない状態で作戦を発令してしまったことも現場の混乱が起こってしまった要因です。
もう一つは連戦連勝による日本軍の驕りもあります。
日本軍の航空隊は日中戦争にも参加している歴戦の勇者ぞろいでした。
一方、アメリカ軍はこれが初陣であるという兵士が大半。さらに航空機の性能も日本軍のほうがこの時点では優れていました。
兵士も世紀も能力は日本の方が上、負けるはずはない、そんな考えから来る気のゆるみもありました。
決戦当日、敵艦隊を発見するために飛んでいた飛行機が雲の上を飛んでしまったのです。本来ならば雲の下を飛んできちんと確認すべきでした。
敵艦隊の発見が遅れた日本軍は先制攻撃を受け混乱。そして主力空母は全滅してしまいました。
取り返しのつかない負け方をしてしまい、この後防戦一方になったことからミッドウェー海戦は日本にとってはあそこで勝てていれば、と考えられることの多い戦いです。
それではもし勝っていればどうなっていたのでしょうか?
太平洋戦争の結果は変わっていたのでしょうか?次から考えていきたいと思います。
ミッドウェー海戦の勝利パターン
この作戦における日本軍の目的は2つありました。
もちろん両方が達成されることがベストですが、おそらく一部であっても日本軍は「勝利」としていたと思います。
ミッドウェー島を占領するだけでも、あるいは敵空母を一隻でも沈めるだけでも「勝った」と見せることができたからです。
しかし、敵に与えた損害以上の被害を被った場合は勝ちとは言えないでしょう。
史実ではアメリカ空母も1隻沈めています。しかし日本の被害が4隻だったので負けです。
そこで日本の被害はアメリカに比べると軽微であった、という前提のもとで考えていくことにします。
以上を踏まえ、以下の3パターンを想定します。
①ミッドウェー島を占領したものの、米空母は健在
②ミッドウェー島の占領には失敗するものの、米空母は全滅させた
③ミッドウェー島を占領し、米空母を全滅させた
では一つずつみていきましょう。
ミッドウェー海戦に勝っていたら
①ミッドウェー島を占領したものの、米空母は健在
勝利条件の中でもこれは一番悪いものになります。
米空母が存在している限りさらなる東京空襲の恐れから解放されないからです。
そこで日本軍としてはもう一度敵空母との決戦を模索するでしょう。
積極的に攻めていくのであればハワイ攻撃になります。ミッドウェーと同じことをハワイでもするのです。
しかし、ハワイはアメリカ海軍の太平洋方面の拠点ですので、ミッドウェー以上に基地部隊の攻撃力と防御力も高いです。より綿密な計画が必要でしょう。
日本軍がハワイを攻撃する前にアメリカも反撃してくる可能性もあります。
攻守逆転した形でミッドウェー島を巡る戦いが起こった場合、日本からミッドウェー島の距離はハワイからミッドウェー島の倍あるので、日本本土から駆けつけたのでは間に合わないかもしれません。
予めミッドウェーに防衛のために戦力を割くのも、戦力の分散になりよくありません。アメリカ軍の反撃がミッドウェーでなかった場合も困ったことになります。
結局このような形で勝利しても一気に日本軍が有利になるということではなさそうです。
むしろ次の一手が非常に難しくなります。
②ミッドウェー島の占領には失敗するものの、米空母は全滅させた
こちらは東京空襲の恐れからは解放されます。
さらにこの時点では太平洋上で活動するアメリカの空母がなくなります。ミッドウェー島を占領するために改めて攻略部隊を出すことも可能です。
ただし、史実では翌1943年の春には新しく建造された米空母が前線に登場するので、この日本軍の圧倒的優位はそれまでの期間だけです。
しかし、この時点でアメリカ軍の空母がいないであれば大西洋方面から割くか、建造のスピードを上げるなど対処を取るでしょうから、史実通りの時期まで自由に日本軍が活動できるかはわかりません。長く見積もっても半年くらいでしょうか。
これ以降はアメリカ軍の航空機の性能も飛躍的に向上しますし、時間が経てば経つほど新造空母が前線に出てくるので数の面で圧倒されます。
日本軍は半年ほど自由に動けるのでさらに勢力圏を伸ばせるでしょうが、史実同様補給がどこまで続き守り切れるのかという問題は変わりません。
③ミッドウェー島を占領し、米空母を全滅させた
ミッドウェー海戦における勝利としては一番良いケースです。ここまで来たら海軍としてはハワイ占領を計画するでしょう。
①のように敵空母を恐れることなく、②のようにミッドウェー攻略に時間を取られることなく、ハワイ攻撃に移れます。
もちろん敵の抵抗も強くなるでしょうからハワイ攻略がうまくいくかどうかはわかりません。
仮にうまくいったとして考えてみますが、それでも日本にとってはあまりいい未来は待っていないように思います。
一つは②で見たのと同様に米軍の戦力が整ってくるからです。
太平洋の島を占領していっても、アメリカの生産力には影響がありません。従って1943年以降は日本の艦隊が全て健在だとしても、日米の戦力差が縮まっていき、やがて逆転されることは明白です。
史実と比べると最大進出線が伸び、戦争がもう少し続いていた、というくらいでしょうか。
日本としてはハワイを占領して、アメリカと講和する、というのがベストでしょうが果たしてそのタイミングでアメリカが講和に乗ってくるかどうかはわかりません。
時間を稼ぎさえすれば十分に日本に勝つことは可能なので、アメリカはよほどのことがない限り日本と講和する必要がないからです。
講和に関していえば、ミッドウェーでアメリカ空母を全滅させ、太平洋で稼働空母がなくなった段階で結ぶ、という方がまだ可能性が高いでしょう。
しかし、「日本の軍部がそれで納得するか」「アメリカの事情もそこまで日本が把握しているか」という点で実現性は低いと思います。
そもそも日米戦争は中国問題が原因なので、「日中間の戦争はどうなるのか」「ヨーロッパで戦闘が続いている中でドイツやイタリアを置いといて日本だけが講和できるのか」という問題もあります。
④勝ったとしても残る問題
以上のようにミッドウェー海戦に勝利したとしても、それは一時的なものでいずれ日本は史実と同じく窮地に陥る可能性が高いです。
自滅した戦いで十分に勝てた戦いであるということ、戦局の転換点に当たる戦いであったことから「もしも」の語られることの多いミッドウェー海戦ですが、ここで勝利をしていたとしても、別の戦いが「ミッドウェー海戦」として語られていただけかもしれません。
まとめ
✔ ミッドウェー海戦は作戦立案が急で、目的の共有が不十分だったことが敗れた一因。
✔ 連戦連勝による気の緩みも負けた原因になった。
✔ 勝っていたとしても島の占領だけでは不十分でむしろ米空母の全滅の方が重要。
✔ 米空母を全滅させていても、日本軍の圧倒的優位はあと半年ほどしかもたなかった。
✔ ミッドウェー海戦で米空母を全滅させ、勝利したタイミングで講和ができればよいが、日米双方の事情でそれができる可能性は非常に低かっただろう。
✔ 結局ここで勝っていても、他の戦いで戦局の転換点が起きていた可能性が高い。